2016年08月18日

技適マークつき BLE パケットスニファを入手する

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Bluetooth Low Energy (BLE) の勉強のために BLE パケットを覗いてみたいと思いました。BLE の通信プロトコルは複雑ですが、パケットの内容を適宜精査すれば座学的な情報の向こう側にある実像を捉えることが可能となるでしょう。

国内では次のような BLE プロトコルアナライザが販売されています。もっともこういった数百万円オーダーの専用機にはなかなか手を出せません。

もっと手軽な方法として、BLE チップ・モジュールベンダの提供するパケットスニファを利用する選択があります。代表的な製品をピックアップしてみます。 2016年8月時点では日本国内で正規に流通している BLE パケットスニファ製品は見当たりません。もちろん国外から調達することは可能ですが、電波法に基づく技術基準適合(技適)証明とのかねあいが気になるところです。

パケットスニファと技適

たとえば、前掲の Nordic Semiconductor 社製「nRF51 Dongle」は技適証明を受けていないためディストリビュータが次のように注意を促しています。

  • nRF51 USB dongle for emulator,firmware - jp.rs-online.com
    警告
    
    本開発キットは技術基準適合証明を受けておりません。本製品のご使用に際しては、
    電波法遵守のため、以下のいずれかの措置を取っていただく必要がありますので
    ご注意ください。
    
     - 電波法施行規則第 6 条第 1 項第 1 号に基づく平成 18 年 3 月 28 日総務省告示
       第 173 号で定められた電波暗室等の試験設備内で使用する。
     - 実験局の免許を取得したのち使用する。
     - 技術基準適合証明を取得したのち使用する。
    
ただ、電波法は受信のみを目的とするものを規制対象外としています。
  • 電波法 (最終改正:平成二七年五月二二日法律第二六号) - law.e-gov.go.jp
       第一章 総則
              :
    第二条 この法律及びこの法律に基づく命令の規定の解釈に関しては、次の定義に
           従うものとする。 
              :
      五  「無線局」とは、無線設備及び無線設備の操作を行う者の総体をいう。
           但し、受信のみを目的とするものを含まない。 
              :
    
機能の性質上、パケットスニファの通信上の役割は受信に特化しています。ではこのデバイスを規制対象外と判断し安心して国内で使うことは適切でしょうか? 実はさらに考慮すべき話題があります。

上の記事のように、nRF51 Dongle は mbed 対応のプログラマブルな無線通信デバイスです。つまり、この「無線設備」は元来「受信のみを目的とするもの」ではなくむしろ「操作を行う者」によってプログラムを書き換え可能であることを特長のひとつに掲げている製品です。上に挙げたスニファデバイスはいずれも同様の側面を持っています。

以下の例のように、技適マークつきの製品においてさえ「ファームウェアの書き換え」との整合性を一意に判断できない事情を考え合わせると、技適マークなしのこれらのスニファ製品の日本国内での使用の是非はやはり微妙かもしれません。

  • ESP-WROOM-02のファームウェアを書き換えた場合、技適はどうなるのか - スイッチサイエンス
    ユーザーによるファームウェアの書き換えが、ESP-WROOM-02の工事設計認証を
    無効にする可能性について、メーカーのEspressif Systemsに確認をしました。
    同社は登録認証機関に確認した上で、Arduino core for ESP8266 WiFi chip
    または同社製SDKを使っている限りにおいては、認証には影響を与えないという
    回答を下さいました。他の開発環境など、ファームウェアを書き換える部分に
    よっては、認証に影響を及ぼし得るとのことですので、ご注意ください。
    
  • モノワイヤレス製品情報 - MONO-WIRELESS.COM - mono-wireless.com
    電波法規(技適)について
             :
    更にファームウエアを書き換えると認証の範囲を外れてしまう無線モジュール
    も存在しています。弊社製品は全て技適認証に適合した無線モジュールですので
    コンプライアンスに背くことなく安心してご使用していただけます。併せて
    「電波法についての考慮事項」を参照ください。
    
  • DD-WRT - wikipedia
    電波法による規制
    
    日本においては無線機器に対してメーカー側が想定していない非公式ファーム
    ウェアへの書き換えを行った時点で技適マークが無効となり、無線LANを利用する
    場合は電波法に違反する[要出典]。
             :
    

Adafruit 社製「Bluefruit LE Sniffer」

そんなわけで前掲のスニファの導入は一旦保留していましたが、情報を探しているうちにふとある製品のスペックに目がとまりました。

MDBT40 は、Nordic Semiconductor 社製のメジャーな nRF51822 チップを搭載した 中国 Raytac 社の BLE モジュールです。前に BLE まわりの製品調査を行っていた折にこの MDBT40 が日本の技適証明を取得ずみであることを知り名前が印象に残っていました。

MDBT40 を載せた製品は下記の例のように国内で流通しています。

  • Adafruit Feather 32u4 Bluefruit LE - スイッチサイエンス
    BLE(Bluetooth Low Energy)機能付きの小型Arduino互換ボードです。
    Adafruit Bluefruit LE Microの後継品です。
                    :
    Arduino Leonardoなどに搭載されているATmega 32u4を搭載。
    BLEモジュールであるMDBT40は、総務省の工事設計認証(いわゆる技適)を
    取得済みなので、日本国内で使用することができます。
                    :
    
Adafruit 社製のこの「Bluefruit LE Sniffer」の製品写真をよく見ると、技適マークつきの MDBT40 が載っていることを確認できます。 (クリックで大きく表示)

このスニファであれば技適関連のジレンマなしに利用できそうです。本体価格は直販で $29.95。以下、Adafruit 社公式サイトより。

Bluefruit LE Sniffer のポイントをざっくりまとめてみます。

さっそく Adafruit 社サイトでオーダーしました。 配送方法には最も安価な United States Postal Service の「First-Class Package International Service™ incl. $1.60 insurance : $16.40」を指定、計 $46.35 を PayPal で決済し一週間ほどで到着しました。

発送連絡後に USPS サイトで配送状況を確認すると経由地に「JAMAICA」の表記あり。さては Japan -> Jamaica のミスか? と疑いましたがこれはカリブ海域にある国の名前ではなく JFK 空港そばの「JAMAICA, NY 11430」でした。物流の要衝のようですが恥ずかしながらニューヨークにジャマイカという地名があることを初めて知りました。Adafruit さん疑ってごめんなさい(^^;

使ってみる

Windows PC で Bluefruit LE Sniffer を使用する最短の手順を示します。詳細は nRF Sniffer アーカイブ内の「nRF Sniffer User Guide」に記載されています。

  1. FTDI 社の仮想 COM ポートドライバを未導入ならインストール
  2. 最新の nRF Sniffer の zip アーカイブをダウンロードし適当なフォルダ A へ展開
  3. Wireshark(v1.10.1 以降)を未導入ならインストール
  4. Bluefruit LE Sniffer を USB ポートへ接続し Sniffing の対象とするデバイスを近接させておく
    図は「nRF Sniffer User Guide v1.2」より
  5. フォルダ A 直下の「ble-sniffer_win_<version>_Sniffer.exe」を実行
  6. コンソールが開きアドバタイジング中の BLE デバイスが一覧表示される
  7. カーソルキー+ENTER または「#」番号で対象とするデバイスを選択
  8. デバイスを選択した状態で「w」キーを押下すると Wireshark が起動。あとはデバイス側で必要な操作を行えばよい

付記:デュアルユース品と輸出規制

ご存知の方も多いと思いますが、MouserRSDigi-key といった一般のディストリビュータから所定の電子部品を購入しようとすると、その製品の内容と在庫元・出荷元の国や地域によっては軍事転用の可能な「デュアルユース品目」として輸出規制に引っかかり、所定の書類一式の提出を求められ審査のために数週間程度待たされる場合があります。

今回、某ディストリビュータへ所定の商品が輸出規制の対象が否かを事前に判別する方法の有無を尋ねたところ「注文を受け実際に輸出手続きを開始しなければわからない」との回答でした。 輸出規制に関する注意書きの有無はまちまちですが、以下に一例を引用します。

  • nRF51-Dongle Nordic Semiconductor | Mouser - www.mouser.jp
    This product may require additional documentation to export
    from the United States.
    この製品をアメリカから配送するには、追加の書類が必要になる
    ことがあります。
    
一方、直販も行っている Adafruit は自社製品の輸出管理を主体的に実施している旨を公式サイト上で宣言しています。こういう場合には直販を利用するほうが面倒が少ないようです。


(tanabe)
klab_gijutsu2 at 11:35│Comments(4)TrackBack(0)Bluetooth | IoT

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この記事へのコメント

1. Posted by 長島   2016年11月04日 08:39
「Bluefruit LE Sniffer」購入してみました。本文にもあるように1週間ほどで無事到着しました。
Wiresharkは、1.12までしかプラグインがないためなのか、最新2.21では起動時にエラーが出てしまいダメだったので、1.12に落としたところよさそうです。
しかしながら、「Bluefruit LE Sniffer」の「6.アドバタイジング中の BLE デバイスが一覧表示」には何も表示されない状況ですが、そのようなことはありませんでしたでしょうか。
Windows7とWindows10で確認していますが、現状は変わらずです。
2. Posted by tanabe   2016年11月04日 09:33
こんにちは。手元では Windows 10 実機と Windows XP 仮想マシン環境で ble-sniffer_win_1.0.1_1111_Sniffer.exe を使っており、いずれにおいても当初より記事中の図のように BLE 機器からのアドバタイジングが適切に検知されています。スニファの COM ポートが正しく認識されているか、スマートフォンのツール等では当該機器からのアドバタイジングが検知されるか、等を確認しながら切り分けを進めてはどうでしょう。最終的に状況が変わらなければあるいは初期不良の可能性もあるかもしれません。良い展開をお祈りします。
3. Posted by 長島   2016年11月04日 20:09
コメントありがとうございます。
こちらの状況としては、アドバタイジング中のBLEデバイスが見えないだけにも見えます。
もしかして、以前のBluetoothのバージョンは検知できないものでしょうか。
実はBLEではなく、Bluetooth2.xや3.xのWindowsドライバの動作を見たくて購入してみたものでした。
Linux/Androidは、hciを監視することでログが取れるようなのですが、Windowsはログが取れなくて...。
ちなみに、COMポートの認識は正しくされているようです。PCや携帯からは、該当機器が見えていますし、それらはSPPで通信しているのでBluetooth機器は動作しているものと思います。
4. Posted by tanabe   2016年11月04日 21:45
「Bluefruit LE Sniffer」は製品名の通り BLE (= Bluetooth Low Energy)専用です。ご承知のことと思いますが、旧来の Bluetooth Classic と BLE との間に直接の互換性はありません。

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