2019年04月30日

生活を「不自由」にするためのソリューション

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自分の自由を拘束してみることの価値

生活をより便利にするための製品やサービスの開発と普及が加速しています。新しいものは大いに活用したいところですが、一方で利便性への過剰な没入はしばしば怠惰・依存・不健康といった負の要素と背中合わせであることにも注意しておきたいものです。
近年、スマートホーム等のキーワードに象徴される光景とは逆向きにあえて利用者に不便を強いるための機器が出始めていることを知り関心を持ちました。
不自由さのあとの自由からはその恩恵をあらためて新鮮な思いで学ぶことができるでしょう。あるいは、今まで自分にとって重要で欠かせないと思っていたものとの関係を見直すきっかけとなるかもしれません。そのように、普段あまりに見なれた自由との間に距離をおいてみる試みは、自分の日常への向き合い方を考えるための材料のひとつになりえるのではないでしょうか。

  • ずいぶん昔に読んだ、故・中島らもさんのエッセイを思い出しました。要旨のみを本文から引用します
    中島 らも (著) 「とほほのほ」 1991/1 - www.amazon.co.jp
    「楽園はどこにあるのか (4)」 より

    そのマヤの「現世-楽園置換装置」というのは、かなり大きなドームの形をしている。内部はガランとした空洞で、この遺跡からは多量の炭化した「トウガラシ」が発見された。神官たちは支配下の善男善女たちをこのドームに入れ、大量のトウガラシをいぶした煙をドーム内にあおぎ入れたのだろう。人々は恐怖と苦痛で、発狂と死の直前まで追い込まれる。そのときドームの戸が開かれる。冷たくて香りのよい空気がなだれ込んでくる。人々は自分が立っている「いま」「ここ」がすなわち楽園にほかならないことを確信するのだ。

製品の例

1. kSafe

概要

kSafe は Kitchen Safe Inc (米 カリフォルニア)による製品。 タイマーつきの電子ロック式小物入れ。あらかじめ設定した時間が経過しなければ中身を取り出せないしくみで、日常生活において依存対象となりがちなスマートフォンやもろもろの嗜好品へ接触する自由を自分自身で制限することができる。
以下、公式サイトの記事より。

  • kSafe by Kitchen Safe | The Time Lock Safe - www.thekitchensafe.com


    A powerful tool
    to build good habits


    Once the timer is set, and the button is pressed, the safe will remain locked until the timer reaches zero.
    No overrides!

    www.thekitchensafe.com

  • frequently asked questions | kSafe by Kitchen Safe - www.thekitchensafe.com
    Why do I need the kSafe?

    Short Answer - Because it’s really cool! And, it’s been scientifically proven to increase your chances of reaching your goals.

    Long Answer - The kSafe was developed based on research published by scientists at MIT, Harvard, Stanford, Princeton, and Yale. They discovered that pre-commitment can significantly increase our chances of achieving our goals.   :
    Google 訳
    なぜkSafeが必要なのですか?

    簡単な回答 - 本当にクールだから! そして、あなたの目標を達成する可能性を高めることが科学的に証明されています。

    長い答え - kSafeは、MIT、ハーバード、スタンフォード、プリンストン、エールの科学者によって発表された研究に基づいて開発されました。 彼らは、事前コミットメントが私達の目標を達成する私達の可能性をかなり高めることができることを発見した。   :

権威めいたものを引き合いに出しながら肝心の「いつ・どこで・誰が・どのように」が省略されていることが残念だが、製品そのものは興味ぶかい。

価格

ただし、この kSafe は結構値が張る。下記のように公式サイトからの直販でノーマルサイズの「Medium」が送料別 49米ドルという価格。

逡巡とその後

この製品のコンセプトに関心がからまりしばらく直販サイトを徘徊した。 総額で $49 なら買ってもいいと思ったが、日本への最安送料 $29.34 が加わると Medium で計 $78.34。手元での費用対効果を想定するとこれはかなり微妙で悩ましい金額だった。

上のスクリーンショットのようにカートに入れたまましばらく好奇心と理性の間を行き来していると何日か後に販売元から以下のメールが届いた。 個人的にはこの内容に微妙な印象が残り結局買うのをやめた。

From: kSafe by Kitchen Safe
Date: 2019年2月15日(金) 4:40
Subject: Are you OK? Kitchen Safe is worried
To: xxxxxxxxx@gmail.com

Hey,

We noticed that you didn't complete your Kitchen Safe order! The only reasonable explanation we can think of is that your computer exploded right before you could click "Complete my Order". Don't worry, we saved your shopping cart so you can complete the order from a friend's computer or phone (see bottom of email).

If your computer didn't explode and you're just on the fence, be sure to read some of our customer reviews.

Also, you can apply this coupon: CommitToChange to save 10% on checkout. It expires in the next 24 hours.

Thank you,

The Kitchen Safe Team
www.thekitchensafe.com

今となっては高額出費を抑えられたことにむしろ感謝している。

2. Timer Lock

概要

Timer Lock はノーブランドの中国製品。 名前のとおり上の kSafe と同様のタイマーロック製品であり、こちらは箱型ではなく錠前のスタイル。


www.amazon.co.jp

価格

価格は kSafe に比べれば安い。アマゾンジャパンでは 2000円ほどの価格から販売されている。複数のセラーが存在。

ちなみに eBay ではその半額程度で出回っている。

購入

買ってみることにした。当初は eBay の利用を考えたが、アマゾンのレビュー等を参照すると製品の大元の品質に対する一抹の懸念が残った。結局、価格差を保険料と割り切り、実際に問題に直面した場合に返品のしやすいアマゾンで購入した。

観察

以下、現物を手にした状態でのメモ。

  • サイズ感は写真のとおり
  • ワイヤを右側のホールへ装着して使う。差し込んだワイヤは本体右脇のボタン押下でリリース
  • 左右ボタンでキッチンタイマー風に時分を設定(最長99時間99秒)し、中央ボタンで開始。5秒間の猶予後はタイマー満了まで解除不可となる
  • 錠前の形状ではあるがこういう華奢なつくりなので非常時(?)には簡単に壊すことができる。言いかえれば防犯用途にはまったく適さない
  • 内蔵バッテリーを付属の USB ケーブルで充電して使う。本体装着側が MicroB ではなくレアな外径 2.35mm / 内径0.7mm プラグなのがちょっと残念
  • 手元では一度のフルチャージを経てこの 2か月ほど週に 3, 4 回、それぞれ 12時間程度のタイマー設定で使っているがまだ充電切れの予兆なし

使用例

自宅の観音開きの押入れをロック対象とすることにした。これなら小物入れ式の kSafe とは異なり楽器など大きなものでも最長 99時間99分後の未来へ預けることができる。 本体のワイヤは押入れの取手を直接ホールドできる長さではないため以前ホームセンターで買った硬質プラスティック素材のチェーンを併用した。写真のようにちょっと物々しい感じに。

動作の様子: 1分17秒 音量注意

所感

実際に使ってみるとこれは望外に良い製品だった。普通に丁寧に扱えば何の問題もない。予備をかねて eBay でもう一台購入。 説明書をみたところではこちらがより新しいバージョンらしい。少しデザインが異なるが機能は同じ。

この価格で買える不自由・非日常の価値は大きい。

付記

手元の一連のメモを上の記事にまとめていたところ、前掲の kSafe のアマゾンジャパンでの販売価格が高騰していることに気がつきました。 アマゾンでは以前からメーカー直販よりもかなり割高な 9,700円という価格で販売されていましたが、現在は 1万円を優に超えておりちょっと驚きました。

元々あまり目立つ製品ではないためかこれまでの観察の範囲ではアマゾンでの価格に変動はありませんでした。不思議に思って情報を探してみると @ryogomatsumaru さんによる 4月22日の次のツイートがこのブームの発端らしいことを知りました。

すごい影響力ですね。まさに情報の時代であることをあらためて実感しました。話題が重なるのでこの記事はキャンセルしようかとも思いましたが、せっかくなので史上初の10連休と平成最後の日の記念(?)をかねて。


(tanabe)
klab_gijutsu2 at 02:53│Comments(0)その他 

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