2017年09月21日

40年前の「子供の科学」誌との再会を通じて

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子供の科学」は株式会社誠文堂新光社様の発行する小中学生向けの月刊科学雑誌です。創刊は関東大震災の翌年 1924年(大正13年)とふるく、世代をまたいで読み継がれています。この記事をご覧になっている方の中にもかつての読者(現役の読者も?)が少なくないことでしょう。

手元では 1977年前後にこの「子供の科学」(以下 "同誌")を購読していました。それからずっと長い間忘れていたのですが、先日実家に残っていた当時の何冊かを見つけました。
懐かしい気持ちで久しぶりに 40年前の誌面を読み返したところ、子供と同じ目の高さで科学や技術、未来に向き合っていた当時の大人たちの懐の深さと真剣さを現在の年齢なりに強く感じました。商業誌である以上、誌面には小さな読者たちからの要望のいくばくかも反映されていたであろうことを考え合わせるとさらに興味ぶかく感じられます。

この機会に印象に残ったいくつかの記事を電子化しておくことにしました。その内容を「子供の科学」編集部様のご承諾のもとに紹介します。あわせて、40年を経た 2017年現在の誌面と 93年前の創刊号にも目を向けてみたいと思います。


1977年 第12号より

表紙

遺物の写真のまわりに 4つの記事のタイトルのみが淡々と並ぶシンプルな装丁。「マリモはどうして丸くなる?」という取り立てて派手さのないタイトルが堂々と表紙に据えられていることも印象的。

目次

同誌の内容は多岐に渡る。「原子力製鉄」という記事と「実用工作 ちりとり」という記事が何の違和感もなく共存していることに守備範囲の広さが感じられる。

「針のいらないレコードができた」

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もし, プレイヤーにレコードをのせ, 回転させるだけで, 針の付いたピックアップがないのに, 実際に演奏を聞くのと少しも変わらない, すばらしい音質(これを超ハイ・ファイと言います)で再生できたら, おそらくみなさんはびっくりさせられることでしょう.
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このレーザー光線による微小ビットの記録再生技術は, さらにいろいろな応用が考えられています.
 テレビに接続すると映像の出るレコードとか, 超長時間録音とか, 例えば100曲ほど入ったジュークボックスが, たった1枚のディスクでできるとか, あるいは楽器別に同時記録ができるマルチ・チャネル方式への応用など、研究者達の夢は限りなく広がっています.

PCM レーザサウンドディスク」は、コンパクトディスク(CD)が製品化されるよりも前に三菱電機ティアック東京電化の三社によって開発が進められていたディジタルオーディオシステム。音楽愛好者の重要な音源だった FM 放送の周辺で「PCM 録音」のキーワードが話題になり始めていた時分であり現在が過去の未来であることをあらためて感じさせられる。時代を経てアナログオーディオの価値が再認識された現代ではむしろ「針を使うレコード」のほうが新鮮で贅沢であることもまた興味深い。

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「自由に曲線が切れるカッター」

ナイフなどで紙や布を曲線に切る事は, たいへんむずかしい事です. この道具は, ゴムのローラーを利用して自由に曲線が切れるようにしたものです.
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ローラーが付いているので, 紙や布の上を自由に動かす事ができ, ジグザグにでも, 曲線状にでも切れるというわけです.
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世界初のロータリーカッターである オルファ株式会社の「マルカッター」の解説。短くさりげない記事だが曲線の切れるカッターのしくみが丁寧にわかりやすく説明されている。 この記事を書いた青木国夫氏(故人)は当時国立科学博物館工学研究部長の要職にあった著名な研究者。

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「自動焦点カメラのしくみ」

ひと昔前にはまったくの夢だった自動焦点カメラの出現です.
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月の探索用に積み込まれた無人操作カメラや, 8ミリシネマカメラには前から使われていましたが, この種類の普及カメラに組み込まれたのはこれが最初で, 文字どおり「シャッターを押すだけ」のカメラがここで実現したわけです.
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その仕組みは, これまでの距離計とレンズの焦点調節用の伸縮を自動連動させ, 二つの距離計映像の合致を2個の電子の目が見くらべて, 同じになるとそこでストップ, 実際には, シャッターを押すだけでピントも露出もピッタリ, その間は一瞬の手早さで, 撮影完了ということになります.
その仕組みを, もう少しくわしく説明しますと, ざっとこんなところです(図1)
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この方式は, 短焦点レンズ用(もともとピント幅が広い)には好適ですが,(中略)一眼レフなどの高級機用としては, 今後の研究をまたねばなりません.

コニカ株式会社(現コニカミノルタ株式会社)の C35AF は 1977年に発売された世界初の普及型オートフォーカスカメラ。この記事は発売されたばかりの同製品に用いられている当時最新の AF 技術を子供に理解することの可能な表現と内容で正面から解説している。ちなみに、記事を執筆した故・松田二三男氏は同誌で人気のあった読者投稿写真コーナー 目次 の選者を長らく務めた。

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「触媒について調べよう」

触媒とは, そのもの自体, 反応の始めと終わりで少しも変化しないで, ほかの物質の反応の速さを変えるものをいうのです.
         :
塩素酸カリウムという薬は, 熱すると酸素を発生するのですが, ガスバーナーで熱するぐらいではなかなか酸素はでてきません.    :
あらかじめ, 二酸化マンガン(触媒)を少し加えておくと, 200℃くらいの温度で完全に分解します.
         :
過酸化水素水(市販品のオキシフルとかオキシドールという消毒薬)を使って触媒の研究をしてみましょう.
         :

特にこれといった脈絡もなく「触媒」を扱う化学実験の話題が急にさらりと出てくるのがまた面白いところ。前述のように同誌は広く自然科学分野全般をカバーしており(時には社会科学方面の話題も)、毎回こうした単発の記事が何本も掲載されていた。当時市立中学校の理科教諭だった執筆者の岩崎幸敏氏は 70年代から 90年代にかけて中学生向けの多くの著書を上梓している。

「ぼくの発明 きみのくふう」(読者投稿コーナー)

● カッターナイフの改良 ●

今までカッターの刃を折る時, 手がしびれることがあったので, つめ切りと同じしくみのものをとりつけ, 手がしびれることなく簡単に刃が折れるようにしました. (B)のねじを回しカッターの刃に, (1)を近づけ, あとはつめを切るのと同じ方法で折る. (川上○○ / 北海道沙流郡)


この案は不安解消策として有効です. ただし, カッターにこのようなしくみを付けると, 価格が高くなったり, 使用しにくくなるなどの問題点も出てきそうです. 小学生にしてはいい着眼です.

ネットも PC もなく一個人が自由に情報発信を行う手段がほぼ皆無だった時代には新聞・雑誌等の投稿欄の存在感が現代よりもずっと大きく、同誌のこのコーナーにも人気があった。

子供が真剣に何かを考え工夫をこらして自分なりの結論を出し、それを第三者が理解できるように説明する努力を経て意見を求めるという一連の構図の素晴らしさをあらためて考えさせられる。 さらに、子供から寄せられたアイディアに決して安易に迎合することなく、むしろ大人である自分の視点での率直な意見を時に助言を添えつつストレートに伝えようとする選者の一貫した姿勢がそのことをさらに際立たせている。この号に掲載された応募作品は以下のとおり。彼らは今どんな大人になっているのだろうか。

  • コンパスの改良
  • つめが飛ばないつめ切り器
  • ボックス・ドライバーの改良
  • カッターナイフの改良
  • 豆英単語練習機
  • 自転車用高圧発生機
  • 小鳥のさえずりまくら
  • 黒板用三角定規
  • 音振動力紙ずもう

余談:エポック社「システム10」の広告ページ

この号には発売から間もないエポック社製の家庭用ビデオゲーム機「システム10」の広告が掲載されている。スペースインベーダーが大ヒットしたのが翌 1978年。ちなみに「機動戦士ガンダム」の初放映は翌々年の 1979年。のち 1983年のファミコンの登場によりビデオゲーム機市場の様相は一変するが、そこに至るにはまだしばらくの時間を要した。

  • 当時この「システム10」がとても欲しかったのですが自分でまかなうことはもちろん子供心にも親にねだれるような値段ではなく、ゼロがひとつ少なければ、、と何度も思っていました (> <)

2017年 6月号より

1977年当時の誌面との印象的な再会からほどなくして、本年 2017年の6月号を購入しました。創刊からすでに 90余年、現在は紙媒体とは別に Kindle 電子版も発行されていることを知って驚きました。

40年ぶりに買った同誌はこの時代相応に表現や文体がマイルドになってはいるものの、ガンとして変わらないロゴマークと同様に、誌面から伝わってくるテイストがあの頃のそれとあまり変わっていないことに安心しました。支障のない範囲で一部を抜粋してみます。

表紙と目次

  

記事より

  • 「水中の食虫植物 タヌキモ」
    定番の水棲動植物の特集記事。前掲の 1977年12号では「マリモ」でしたね :−)
  • 「ジブン専用パソコン 第3回ラズビアン(OS)を設定しよう!」
    食虫植物の解説とラズパイの連載記事がやっぱり普通に共存
  • 「ぼくの発明 きみの工夫」
    ボリュームは減ったもののこのコーナーが今も健在であることが嬉しい

創刊号(1924年 10月 第1巻 第1號)より

この記事の冒頭にもリンクを掲載した「子供の科学」公式サイトの次のページから 1924年(大正13年)の創刊号を閲覧することができます。

非常に貴重な誌面がこのような形で公開されていることはとても興味深く読み入ってしまいます。とりわけ、最初のページに掲載されている「この雑誌の役目」という文章に感銘を受けました。93年前に書かれたその全文を以下に引用します。

巻頭の辞「この雑誌の役目」


www.kodomonokagaku.com

この雑誌の役目  主幹

 愛らしき少年少女諸君!!!子供科学画報は、皆さんのために、次のような役目をもって生まれました。
 およそ天地の間は、びっくりするような不思議なことや、面白いことで、満ちているのでありますが、これを知っているのは学者だけで、その学者のかたは、研究がいそがしいものですから、皆さんにお知らせするひまがありません。したがって、多くのかたは、それを知らずに居ります。そのなかで特に少年少女諸君の喜びそうなことを学者のかたにうかがって、のせて行くのも、この雑誌の役目の一つです。

 皆さんが学校で学んでいる理科を、一そうわかりやすく、面白くするために、その月々に教わることがらについての写真や絵を皆さんのためにそろえるのも、この雑誌の一つの役目でもあります。理科の本にかいてある事がらに限りません。読本のなかにある理科の事がらに関するものも、のせておきます。

 毎日のように見たり使ったりしているもの事について、皆さんは、くわしく知りたいと思われることがありましょう。皆さんの御望みを満たすため、絵を入れてできるだけわかりやすく、そういうもの事を説明するのも、また、一つの役目であります。
 簡単な器械の造りかたをお伝えして皆さんの発明の才をあらわし、面白い理科の遊びのできるようにするのも、役目の一つであります。

 しかし、この雑誌の一ばん大切な目的は、ほんとうの科学というものが、どういうものであるかを、皆さんに知っていただくことであります。ちかごろは、「科学科学」とやかましくいいますが、ほんとうに科学というものを知っている人は、沢山ないようです。人は生まれながら、美しいものを好む心を持っておりますが、それと同じように、自然のもの事についてくわしく知り、深くきわめようとする欲があります。昔から、その欲の強い人々がしらべた結果、自然のもの事のあいだには、沢山の定まった規則のあることがわかりました。科学ということは、この規則を明らかにすることであります。多くの人が科学といっているのは、大ていは、その応用に過ぎません。この規則を知ることによって、人間は、自然にしたがって、無理のないように生き、楽しく暮らすことができ、これを応用して世が文明におもむくのです。
※書き起こしに際し、旧かな遣い・旧漢字・旧かな送りをあらためています

個人的な雑感

久しぶりに「子供の科学」誌に接し、私自身がもっとも強く印象に残ったのは、それぞれの分野の専門家の大人たちがそれぞれに子供たちに本気で向き合い、本気で何事かを伝えようとしている姿勢です。過剰に機嫌をとりながら話を聞かせようとするのではなく、興味をもった子供たちへ度合いに応じた「努力」の余地を残しながら適度な大きさの粒度まで知識や情報を砕いた上でそれを示し、あとは読み手側の好奇心と探求心にゆだねつつ同時にそれらを育んでいこうとする共通の意思のようなものを感じました。

難しいことをわかりやすく説明できることが最良とよく言われますが、そこに相手を受け身にすることなく相手の向上心を呼び誘うための配慮を加える余裕があればさらに素晴らしいことでしょう。そして、そういった配慮こそがその道に精通していなければなかなか果たすことの難しい命題ではないかと思います。同誌の記事の執筆者はすべて第一線の専門家であり、「子供だまし」ではなく真剣に世代のバトンを引き渡すためにはまさに適役でしょう。この誌面に限らずこういったあまり表には出てこない場所にもまたこれまで静かにこの国を支えてきた多くの大切な要素が脈々と息づいているのかもしれません。

どの世代にもそれぞれの役割があります。現役の大人の世代は年齢とともにいずれ順番に次の世代と交代していくことになりますが、科学や技術、学問の分野の話題に限らず、自分を含め今の大人たちが新しい世代に対する役割を適切に果たせているのか? 彼ら彼女らからの問いかけや疑問に対して都合よく言いくるめたりはぐらかしたりせずまっすぐに答えることができているのか? そういったことは大人から子供への一方的なプレゼントではなく、やがて次の世代との交代を終えた未来の自分の生きる世の中を支える礎にもなるものでしょう。つまり、今の子供たちに真剣に向き合うことはこれからの時代へ向けてのメッセージであると同時にこれからの自分自身に対する応援でもあるはずです。誰もが先人たちから受け継いだこの大きなループの中で生きています。その片隅で自分が少年時代に読んだこの雑誌をすっかり大人になった今の年齢でふたたび読み返しふとそんなことを考えました。


(tanabe)
klab_gijutsu2 at 12:45│Comments(0)その他 

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