2017年01月20日

さよなら Parse

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はじめに

世界中の利用者の指先と視線を凝固させた突然の発表からまもなく 1年、Parse.com の全サービスが いよいよ 2017年1月28日(土)に終了します。拡張性が高く高機能でありながら使い勝手の良い優れたサービスだったので終息が惜しまれます。

      https://parse.com/

手元では 2年ほど前に IoT の実験として試作した以下のしくみ「Anpi」で Parse.com を採り入れました。

  • mbed と Parse で作る高齢者世帯安否確認システム - 当ブログ
    一般に BaaS の主な目的はアプリケーションの対向サーバ側機能を代替・補完することにあり、サーバの管理運用やサーバ側コード開発に踏み込むコストを抑制しアプリ本体の開発に注力可能となることが利用者にとってのメリットですが、Parse にはサーバ上でユーザコードを実行することのできる「Cloud Code」というしくみが用意されています。(中略)今回作った装置は Parse サーバ上に設置した自作コードをそのまま呼び出して必要な処理を行っています。このように目的に応じて柔軟に利用できることが Parse の魅力のひとつと言ってよいでしょう。
この「Anpi」はシンプルながら実用性が高く現在もプライベートで大いに役立っています。そのためすでに Parse.com からの乗り換えを完了していますが、移行の過程で複数のプラットフォームを対象として再実装を横断的に試してみました。今後必要となった際にスムースに想起できる道具立ての選択肢は多いほうが好ましく、今回のように具体的な要件があればその実装を通じて未体験のサービスの特徴や個性を見定めやすいと考えたためです。この記事はそういった試みの記録で、日本国内ではまだ知名度の低いものにも触れています。興味のある方はご覧下さい。

※文中の記述はいずれも 2016年11月から12月の時点の状況に基づくものであり現在の事情とは異なる可能性があります。あらかじめご了承下さい。

手元の要件と移行先選定基準

「Anpi」において Parse.com サイドで行っていた処理は以下の内容です。

  • 屋内に設置ずみの装置が人感センサ反応時に最短 30 分間隔で送信してくる情報をデータストアへ保存
  • 定刻に直近 60 レコード分をレポートとして所定のアドレスへメール送信
  • 装置につないだボタンが長押しされたら所定のアドレスへメールで通知(緊急メール)
  • メール配信には Parse.com が 公式 API で連携している Mailgun サービスを利用

要件に特に煩雑なものはなくこれらを吸収可能なサービスはいくつも存在するでしょう。その上で、今回は次の三点を移行先選定の基準とすることにしました。

  • 運用に手がかからないこと
  • 柔軟性があること
  • 費用がかからないこと
絵に描いたようなユーザエゴではありますが、当時 Parse.com を選んだ理由はこれらのすべてを満たしていたためでもあります。予備調査を経て次のサービス・プラットフォームを検討の対象としました。

  1. IFTTT + Google Drive + Google Apps Script
  2. Kii Cloud
  3. back4app(+ AWS Lambda)
  4. Backand

なお、要件のうち「緊急メール」の発信については以前「今、ワンボタンの IoT デバイスが面白い」でも利用した SendGrid サービスの API を装置側のコードから直接叩くことにしました。メールの内容は決め打ちなので各サービスに仲介させるよりもそのほうが合理的と考えたためです。

以下、上のよっつを順番にピックアップしてみます。

移行先候補 1: IFTTT + Google Drive + Google Apps Script

もっともシンプルに要件を満たす道具立てとしてまず IFTTT と Google サービスの組み合わせを考えました。IFTTT 経由で Google Drive 上の Spreadsheet をデータストアとして利用し Google Apps Script でサーバサイドの処理を実行する内容です。

仮移行を通じての * 個人的な * 印象

GOOD !

  • シンプルかつ柔軟
  • Google, IFTTT ともに今後課金の発生する可能性がきわめて低い
  • Google, IFTTT ともに今後サービスが終息する可能性がきわめて低い
  • コードを含めすべてをブラウザ上で操作できるため運用上の自由度が高い
! GOOD ?

  • 今回の要件には十分だが規模の大きいデータを扱うには不向き
  • あくまでも SaaS とハブサービスの組み合わせであるため当然ながらプッシュ通知など一般的な IoT プラットフォームの提供する機能は代替できない

移行先候補 2: Kii Cloud

Kii CloudKii 株式会社様の提供する日本発の BaaS です。

仮移行を通じての * 個人的な * 印象

GOOD !

  • 多機能かつ無料枠が広い
  • Parse.com と同様に BaaS でありながらサーバ機能拡張が可能
  • サーバのリージョンを自由に選択可能であり特に中国リージョンの存在は大きい
  • キーバリュー形式のデータは使用容量にカウントされないため他のサービスとの併用にも好適か
  • アクセス制御機能が充実
  • 日本語のリソースが充実している

! GOOD ?

  • ドキュメントの情報量は豊かだが通読性がもうひとつ?リンクの張り方にも改善の余地がありそうな印象(このあたりが改善されればより利用しやすくなるかも)
  • 開発者ポータルは UI・機能ともに今後の進化が期待される
  • 開発用のコマンドラインツールが Node.js ベースなのは利点と欠点が半々くらい? バッチジョブのスケジュール変更といった操作はブラウザ上でできると嬉しい・・

移行先候補 3: back4app(+ AWS Lambda)

back4appBACK4APP SERVICOS DIGITAIS LTDA(本社 米カリフォルニア)の提供する BaaS です。

仮移行を通じての * 個人的な * 印象

GOOD !

  • 無料枠が広い
  • 最初から Parse.com の代替用として起ち上げられた純度の高い Parse Alternative であるため Parse.com との親和性が高く移行が相対的に容易
  • UI, ドキュメントがわかりやすい

! GOOD ?

  • 記事中のジョブ設定の問題など現時点では荒削りな側面も見られる
  • Parse.com を継承するサービスとしては良好だが、逆にそのことが独立した BaaS としての新鮮味や個性の発露を削いでいる印象も?

移行先候補 4: Backand

BackandModuBiz Ltd(本社イスラエル Tel Aviv)の提供する BaaS です。

仮移行を通じての * 個人的な * 印象

GOOD !

  • 多機能かつ拡張性に優れている上に非常に使いやすい
  • テスト・デバッグ機能も充実しており UI もわかり易い
  • ファイルホスティングまわりの操作以外はすべてブラウザ上で完結できるため機動性が高い
  • ユーザビリティは今回の中で一番。あとは可用性とスケーラビリティ次第か

! GOOD ?

  • 無料枠の狭さが残念。また、Prototype Plan $0 -> Hobby Plan $19/月 -> Work Plan $49/月 ... といった大きめの料金差に比して待遇差が小さめ
  • 運営側の内部的な指標である「Cache Memory」「Compute Units」のように利用者が主体的にコントロールすることの難しい指標がプランの基準に含まれているため利用目処を立てにくい(むしろ、利用するならはじめから UNLIMITED な料金プランを選ぶべき)
  • 日本のみならず国外でもまだあまりメジャーではなく情報がとても少ない。優れたサービスであるにもかかわらず世間への浸透圧が低い一因は上の料金体系にもあるのではないか?

(2018-01-19 追記)
2018年1月18日、Backand より 2月28日にサービスを終了する旨のメールが届きました。その後手元では利用していませんでしたが、品質の高いサービスであっただけに残念です。

おわりに

手元要件の Parse.com からの移行にあたり以上よっつの環境を試してみました。最終的にこの中のひとつを「Anpi」の乗り換え先に決定して現在に至ります。当初はどれを選んだのかを書くつもりでしたが無粋にも思いやめておくことにしました。いずれも質の高いサービスでそれぞれに十分なメリットがあります。

ほんの10年ほど前には影もなかったものが日進月歩で進化していく状況にリアルタイムで向き合っていると10年後の世界への想像が膨らみます。この時代の傍らを去っていく Parse.com をユーザのひとりとして敬意と感謝の念をもって見送りたいと思います。


(tanabe)
klab_gijutsu2 at 14:26│Comments(0)cloud | IoT

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